タイ:高齢者介護施設の需要増加を背景に、新規参入する企業は技術・運営の両面で日本企業との連携に期待

伝統的に家族が高齢者を介護してきたタイだが、高齢者人口の増加と女性の社会進出を背景に、高齢者ケアの外部化が進みつつある。市場の需要に応えて高齢者ケアサービスを開始する現地企業からは、日本企業との連携を期待する声が聞かれる。

急速な高齢化と高齢者介護施設の潜在需要

タイでは人口の高齢化が急速に進んでおり、2022年には人口の14%以上が65歳を超える「高齢社会」になり、 2040年には2018年の日本と同程度の「超高齢社会」になると予測されている。①まだ比較的健康な高齢者が多いこと、②子供が親の介護をするという文化・習慣が根強いこと、③年金などの公的補助が不十分で入居者の経済的負担が大きいこと、などから市場の成長は早いとは言えないが、高齢者施設の潜在的な需要は高く、要介護高齢者が増加し、女性の就業や核家族化が進む中で、高齢者施設市場は確実に拡大すると考えられる。また、まだ介護を必要としない健常高齢者も多いことから、最近では健康寿命の延伸に役立つサービスや製品も脚光を浴びるようになっている。

高齢者介護施設の需要拡大と供給不足

ここ数年間で多くの不動産開発事業者や大手総合病院グループが高齢者ケア事業への参入を表明しており、特に高所得者層、富裕層の比較的健常な高齢者向けの施設が注目されている。サービスの提供を開始している施設はまだ少ないが、建設中/計画中の案件が多く、数年後には供給が大きく増えることが予想される。一方で、低・中所得者を対象としている施設が不足している。2021年3月時点での高齢者介護事業登録者数はタイ全体で493社、多くの事業者は資本金2,000万円以下の中小事業者であり、事業者の2/3はバンコク首都圏及び中部地域に集中している。

出典:商務省事業開発局(2021年)

タイ政府による外国企業の高齢者ケア分野での投資奨励

外国人事業法により、外国法人はタイ国内で事業を行う事業体の株式の50%未満のみを保有することができるが、行政機関の担当部局の認可を得れば、50%以上の株式を保有することも可能。また、タイ投資奨励委員会(BOI)は特定業種に投資恩典を付与しており、高齢者向け病院、高齢者・介護サービスセンター事業も恩典パッケージの対象になっている。

高齢者ケア事業への参入企業の課題と日本企業への期待

多くの不動産開発事業者や大手総合病院グループが高齢者ケア事業に参入しているが、介護事業の実績がない新規参入企業は、高齢者ケアサービスの技術や高齢者介護施設の運営についての知見が乏しく、ノウハウを持つ日系企業との連携への期待が高い。例えば、タイのプリンク病院グループの系列病院では、日系企業と共同でPNKG Recovery Centerを設立して日本式介護「Kaigo-Do」を前面に出した脳卒中リハビリテーション、末梢神経系のリハビリテーション等、自立に主眼を置き、要介護者が自分でできないことだけをサポートするようなサービスを提供している。高齢者ケア事業に関する日系企業への期待は、要介護者高齢者向けの介護技術や施設管理面でのノウハウだけではなく、要介護高齢者及び健常高齢者向けの補助器具、食品、生活用品、オンラインでの健康管理サービスなどを含めて多岐に渡る。

https://www.princsuvarnabhumi.com/en/medical-center/recovery-center 

現地高齢者ケア関連企業との連携の可能性と留意点

高齢者ケア事業は、事業全体の投資規模が大きくなることや長期的な人材育成が必要となることから、日系企業が現地ビジネスパートナーとの連携を考える際には、パートナー企業の事業展開戦略や資金力を含む組織能力の把握が重要になる。逆に現地企業側も日系企業側に中長期的なパートナーシップを求めることが多く、早い段階で双方の事業展開の方向性を確認し、その上で具体的な協働の枠組み、双方の役割、事業実施プロセスなどを協議する必要があるだろう。

(文責:ICNet Asia 岩城、ビジネスコンサルティング事業部 山﨑)

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