OECD学力調査でタイは参加81ヵ国・地域中58位(数学)。東アジア諸国やベトナムが順位をあげる一方、タイは順位が続落、投資・貿易にも影響。教育システムの改革にはボトルネック多く、産業界が改革に向けた橋渡し役を果たしてはどうか。
タイは順位が下降、ベトナムは順位が上昇、その差は開く一方
世界的な学力調査(15歳対象、OECD実施。読解、数学、科学の3科目)として、
PISA(Programme for International Student Assessment)がある。この結果が昨年末に公表され、タイは81の参加国・地域中で、読解が64位、数学が58位、科学が58位と低位に留まった。しかも、2001年にPISAに参加以来、スコアは下降傾向にあり、タイの教育システムの改革の遅れ、ボトルネックの大きさをバンコク・ポストが指摘している。一方、我が国製造業の海外拠点として目覚ましい成長を告げつつあるベトナムはタイの順位を大きく上回り、OECD平均スコアにも迫る勢いで、両国の差は開きつつある。
数学:ベトナムでは数学に親しみをもち、社会で役立つ教育に工夫。高校から関数電卓も使用
ベトナムでは高校入学時より関数電卓の利用を前提にして数学の授業が行われており、卒業試験や大学入学試験においても、関数電卓の利用が認められている。このため、ベトナムでは高校入学前から、関数電卓に慣れ親しんでいる。また、高校の教科書(普通科)の内容をみても、「建設現場では傾斜面の角度が大事であり」といった記述や角度の測定方法(三角関数)が記載されている等、就職後、機械加工や建設の現場で役立てられるような工夫がなされている。
Mathematics | |
Average of OECD | 472 |
Singapore | 575 |
Japan | 536 |
Korea | 527 |
Vietnam | 469 |
Thailand | 394 |
アジア主要国のPISAランキング(数学、2022年)
~タイとベトナムに大きな開き~
ベトナムの高校の教科書の一部(三角関数)
~角度や斜面長の計測は職場で重要との記載~
教育システムの改革にはボトルネックが多い。産業界が改革の橋渡し役になれないか
タイの教育システム改革に向けては、硬直的な予算制度、教師等の人材登用のあり方、カリキュラムや指導要領改編に向けた意思決定システムのあり方、所轄官庁と地方の関係等、多くのボトルネックが存在し、改革は容易ではない。しかし、どこの地域でも数学に関心を持ち、数学を使って問題解決や創造性を発揮できる生徒は一定数いる。タイでは教育界と産業界の関係が希薄ではあるものの、産業界がスポンサーとなって、例えば数学コンクール(個人だけではなく、グループで能力を競い合い、表彰するイベント等)を主催したり、社会で役立つ数学の啓蒙等により、教育システム改革に向けた導線を引いてはどうか。
(文責:ビジネスコンサルティング事業部 佐藤、荒井)