サブサハラ地域等の無電化地域で、小規模太陽光発電システムによる「生活の便利さ」だけでなく、「農業の生産性向上」を実現する取り組みが進められている。農家が豊かになることで、人口ボリュームの大きな無電化地域の農家層へのビジネスチャンスが広がる可能性があり、注目したい。
ソーラー・ホーム・システム(SHS):無電化地域の課題解決への可能性
サブサハラや南アジアの農村部を中心に、世界中の約10人に1人以上は、電力にアクセスできない無電化地域に住んでいる ※1。その解決策の一つが、小型の自家用太陽光発電システムであるソーラーホームシステム(SHS)である。送配電網が未整備の地域でも、SHSを使って電力にアクセスできるようになる。
これまでのSHSのニーズは、照明やラジオ、テレビ、充電器などの「生活の便利さ」にアプローチするものが中心だった。しかし近年、無電化地域の農家が、SHSを農業生産に活用し「エネルギーの生産的利用(Productive Use of Energy)」の取り組みが開始されている。例えばサブサハラアフリカでは、SHSと組み合わせて使用する灌漑ポンプ、搾乳機、家禽保育器、冷却・乾燥機、加工機械などの商品が展開されている ※2。これらの商品を農家が導入することで、農業の生産性向上が期待できる。
無電化地域の農家向けのビジネスチャンスになりうるか
一方で、SHSによる農業生産性の向上に向けては未だ課題がある。SHSは、開発途上国の農家が購入できる価格帯で、家の屋根に取り付けられる大きさのソーラーパネルであることから、発電容量が小さいものが一般的である ※3。また、サブサハラや南アジアの多くの諸規模農家にとっては、SHSが高価であるため、自己資金のみで購入できる農家は少ない。そのため、現時点で、小規模農家が購入することができて、投資対効果が高く、商業的な広まりを見せている商品は、ソーラー灌漑システムなど一部の用途に限られている。今後、金融サービスとの連携や、コミュニティグループでの共同投資などにより、農家にとってより投資対効果が高く、発電容量が大きいSHS商品が商業的に広まりを見せると、農業生産性の増加に向けた可能性が広がるだろう。
SHS機器のROI(2年間)
これらの課題を乗り越えた後、SHSの生産的利用によって、所得レベルが上がり、電気やインターネットなどのインフラにアクセスできる農家が増加するだろう。そのようなユーザーに対しては、インターネットを通じた安価なマーケティングが行いやすくなり、SHS事業者が導入しているモバイル電子決済を利用した、確実な支払いの回収ができるようになるといった利点が生まれる ※4。開発途上国でビジネスを展開する民間企業にとっても、人口が多いが、これまでビジネス展開が困難だった農村部の無電化地域において、新たなビジネスチャンスが広がる可能性がある。
※1. 経済産業省によると2018年時点の未電化人口は8.6億人。(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-2-3.html)
※2. 世界銀行、LIGHTING GLOBALの「The Market Opportunity for Productive Use Leveraging Solar Energy (PULSE) in Sub-Saharan Africa」報告書より
※3. BanglandによるとバングラデシュのSHSの平均的な発電容量は、40W程度。(https://www.jica.go.jp/bangladesh/bangland/reports/report24.html)
※4. ケニアのM-KOPA社やBboxx社といったSHS事業者は、モバイル端末などを用いて利用する分だけ支払いができるPAYG(Pay As You Go)の決済の仕組みを導入している。
(文責:開発コンサルティング事業第一部 尾崎)