インド:高齢者ケアサービスに参入するスタートアップ企業は技術力に課題を抱え、日本企業との連携に期待

伝統的に家族が高齢者を介護してきたインドだが、高齢者人口の増加と女性の社会進出を背景に、高齢者ケアの外部化が進みつつある。市場の需要に応えて高齢者ケアサービスを開始する現地企業からは、日本企業との連携を期待する声が聞かれる。

2050年にインドの高齢者人口は世界第2位に

インドは人口増加に伴い、若年層が多い構造となっている。しかし、経済と医療の発展により、過去数十年で平均寿命は大幅な改善を見せている。その結果、インドの高齢者人口は2050年には約3億人となり、中国に次いで世界2番目の多さとなる。高齢人口の増加を背景に、高齢者向けのケアサービスの需要が拡大し、医療機関等の他にスタートアップ企業の高齢者ケア市場参入が進んでいる。

2021年以降は都市部・地方部の合計推定値。出所:インド統計省

高齢者の在宅ケアサービスの市場が急成長

インドでは、高齢者の世話は家族がするものという根強い価値観がある。しかし、女性の社会進出や海外での就労を背景に、家族による高齢者ケアの担い手が減少してきている。また、家庭内での高齢者の世話を主に感じている人も多い。このような背景から、高齢者人口や可処分所得の増加に伴い、高齢者ケア市場は急激に成長しており、なかでも在宅ケアサービスの需要が高まっている。

高齢者ケアサービス市場に参入するスタートアップ企業の強み

2010年以降、大手不動産会社や病院が高齢者向け施設・住居などのビジネスに参入する姿も見られる一方で、在宅ケアサービスを提供するスタートアップ企業が複数出現している。これらの高齢者ケアサービスは都市部(デリー、ムンバイ、コルカタ、バンガロール、チェンナイ、ハイデラバードなど州都)を中心に、ICTやAIテクノロジーの開発・活用などの強みをいかしてサービスを展開している。例えば、インドの在宅介護分野で最初のスタートアップのひとつであるCare24は、介護士と利用者をマッチングするプラットフォームの運用による在宅ケアサービスを提供しているが、2022年に在宅医療クリニック向けの運営サポート、在宅医療用クラウド型電子カルテの開発・販売を行う株式会社ヒューマンライフ・マネジメントの子会社となり、人工呼吸器や在宅酸素療法、経管栄養など、高度な医療機器の在宅管理を含めたサービスの充実を図っている。



https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000074761.html

スタートアップ企業の課題と日本企業への期待

Care24以外にも日本との技術・資本提携を期待するスタートアップ企業は多い。例えば、高齢者の在宅ケアを中心に、富裕層高齢者向け住宅施設も展開するA社は、国内10都市での在宅ケアサービスの拡大を計画している。顧客ニーズに合わせたサービス提供のため、日本の介護人材育成のノウハウを学びたい希望がある他、介護機器企業との連携にも関心がある。また、心身のウェルネスをモットーに在宅ケアを展開しているB社は、認知症の早期発見や個人に合わせたケアサービスを提供するため、AIなどのテクノロジーの有効利用や認知症ケアにかかる研究で日本企業との提携を期待している。

スタートアップ企業との連携の可能性と留意点

日本の高齢者ケアサービスのスタンダードの高さはインドの高齢者ケア業界で広く認知されている。日系企業との連携に関心を寄せている現地高齢者ケア企業は、比較的新しいスタートアップ企業が多いため、現地パートナー企業を探す際には、候補企業の事業展開戦略やその戦略を実行していくための体力をきちんと見極める必要がある。また、インドと日本では考え方や生活習慣が異なるため、日本の経験や基準がインドにそのまま当てはまらない可能性には留意が必要である。

(文責:ビジネスコンサルティング事業部 大西、山﨑)

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