バングラデシュ:総選挙は与党が勝利 国民の購買力上昇により消費財メーカーに投資チャンス到来

2024年1月7日に実施された第12回総選挙は与党アワミ連盟が勝利し、4期連続で政権運営を担うことになった。この政権が強権方向に振れるカントリーリスクはゼロではないが、インフラ整備を軸とする経済成長路線を看板にしてきた政権が、完全に方向転換することは考えにくい。ASEAN並みの経済水準になるにはまだ少し時間がかかるが、安定した政権下、国民の購買力は上昇しており、豊かさを感じられる消費も増えている。消費者市場向けの投資を検討するステージに入りつつあるといえよう。

野党のゼネスト呼びかけに呼応せず、安定を選んだバングラデシュ国民

最近、そのことを一番実感したのは、今年1月に実施された総選挙前の動きだった。与党アワミ連盟を率いる現職のシェイク・ハシナ首相と複数野党の構図だったが、選挙前、野党による「ハルタル (ゼネスト)」の呼びかけに、国民の多くが呼応しなかったのだ。5年前までとは様変わりと言っていい。

 かつて「ハルタル」と言えば、ダッカ中心部を含めてデモや集会が散発し、一部は暴徒化して警官隊との間で死傷者が出たり、爆発物が火柱を上げる物騒な事態もひんぱんに起きた。そのため、昨年11月中旬、「ハルタル」が何年かぶりに呼びかけられた時は、筆者も少し身構えた。

ところが、フタを開けてみると、バスが何台か放火されたりした以外は、目立った騒乱は起きなかった。野党によるハルタルの呼びかけは、その後も数回出たものの、ダッカ市内は、交通量がやや少ない程度で、市民はいつも通りの経済活動にいそしんでいた。“街頭政治の季節の終わり”…。ハルタルの発令にも呼応しない国民を見ていて、そんなフレーズが思い浮かんだ。

バングラデシュの国民の多くは、食料品など生活必需品の物価高に苦しんでいる。したがって、国民が手放しで現政権を支持したとは言えないだろう。現に、総選挙の投票率は、前回総選挙を大幅に下回り、野党の選挙ボイコットの呼びかけが支持された、との論評もある。しかし、選挙後も街頭行動は起きず、人々は経済活動にまい進している。結局、国民は、現ハシナ政権の経済成長路線、安定路線に、暗黙の支持を与えたように見える。

安定した経済成長が2050年まで続く見通しも インフラ整備が経済成長の原動力

バングラデシュの1人当たり名目GDPは2023年に2,621ドル(IMFによる2023年10月推計値)。インドネシアの5,109ドル(同)やベトナムの4,316ドル(同)に比べればまだ少なく、経済力のある国への出稼ぎは相変わらず盛んだ。

昨年11月末、ダッカからクアラルンプールに飛んだ時も、座席はそんな出稼ぎ労働者風の男たちでいっぱいだった。隣席の男性は、ダッカ南方のムンシガンジ県出身。マレーシアでは、小さなモーター組立工場で働いているとのこと。銅線を手で巻いて大きなコイルを作っている写真をスマホで見せてくれた。「月収は2900リンギット(=9万1677円)だ」と笑った。自国で期待できる月収の3倍近い。

しかし、バングラデシュ経済は2023/2024年度に6.5%と予測されている(アジア開発銀行)。また、2050年までの経済成長率は平均して4.1%のレベルを維持するという(PwCによる)。2050年の1人当たり名目GDPは1万5200ドルとなり、現在のインドネシア並みになる。2050年といえば遠い先のように思えるが、あと26年。わずか1世代だ。

ダッカを歩いていると、街中で高層ビルが建設されている光景に出くわす。民間投資だけではない。長い期間をかけて取り組まれてきた高架高速道路やモノレール、巨大な新空港ターミナルなどが、選挙対策もあり、昨年、次々とオープンした。

莫大な公共投資の多くは、日本などのドナー資金による。日本はバングラデシュに対する二国間援助で世界トップ。バングラデシュ国民もそのことを知っている。日本がかつて、新幹線や首都高速を世界銀行資金で作り、高度成長を本格化させた歴史と重なる。


ビル建設が続くダッカ市内(左)と日本の支援で開通したメトロ6号線(2024年1月)

“手の届く豊かさ”を求める国民 消費財メーカーにとっての投資チャンス

 去年の10月、ダッカの古びたアパートに暮らす若い家族を訪ねる機会があった。まだ強い戸外の陽射しと裏腹に居室に窓はなく、やや暗い照明の中で、主婦の女性に話を聞いた。

6畳くらいの1室に、20代の夫婦と生まれたばかりの赤ん坊の3人が暮らす。台所もトイレもシャワーも共用。そう言えば、東京にも昭和40年代くらいまでは、そんなアパートが当たり前にあった。

世帯月収は2万5000タカほど(約3万4000円)。「物価高は本当に厳しい、節約しています」と若い主婦はとつとつと話す。それでも棚から取り出したシャンプーは、やや高価

なブランドだった。「フケに効くので週2回だけ、大切に使っています」。少しはにかみながら、嬉しそうに言う。廉価品より100タカ(=136円)高いけれども、それは彼女にも「手が届く豊かさ」なのだ。

少し前までのバングラデシュは、そんな小さな豊かさを実感することもなかなか難しい国だったはずであり、ここはビジネスマンとして着目したい。

 社会階層に幅のある「まだら模様の発展」ではあるが、豊かさを感じられるチャンスが、ようやく多くの人に巡ってきた。バングラデシュは今、そんな時代を迎えているのではないか。

衛生まわりの製品、健康志向の食品、ハイスペックの電化製品、ヘルスケア・介護、教育等、バングラデシュ国民が豊かさを実感することのできる製品やサービスを、日本企業は数多く持っている。人々が多様な形で豊かさ、便利さを実感できるきめ細かい小技は「高品質の国JAPAN」のお家芸。1億7000万人の大国バングラデシュの豊かさ実現に向け、日本企業が投資を検討するステージに入ったといえそうだ。


医療機器の展示会(左)とスーパーの輸入食品売り場 (ダッカ市内、2023年11月)

(文責:ビジネスコンサルティング事業部 小山敦史)

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