サステナブル(環境への負荷削減)にとどまらず、生態系を再生させて気候変動の抑制を目指す農法を現地と築きあげるフェーズへ
企業と連携したリジェネラティブ農業(環境再生型農業)の推進例
フィリピンは世界有数の生物多様性が豊かな国だが、気候変動、森林伐採、土地利用の変化などが生態系の構造に影響を与え、自然環境と生物多様性の保護は大きな課題となっている。フィリピンの政府や非政府組織(NGO)、地域コミュニティは、環境・生物多様性保全と持続可能な利用を目指して様々な取り組みを行っている。なかでも、原材料として農産物を調達する企業と連携したリジェネラティブ農業の推進は、持続可能な調達を拡大する企業から注目されている先駆的な取り組みといえる。
リジェネラティブ農業とは、単に環境への負荷を減らすサステナブル(持続可能)農業を超え、積極的に土壌の健康を回復し生態系を再生させることで、気候変動の抑制を目指す農法である。具体的な手法としては、土を耕さずに農作物を栽培する不耕起栽培や、農薬や化学肥料の使用をなるべく避けること、休閑期に地面を覆うように植物を植える被覆作物の活用、異なる作物を周期的に栽培する輪作などが挙げられる。
Nescafé Plan(Nestle社):現地とのパートナーシップによる持続可能なコーヒー生産
Nestlé は、2030年までに原材料の50%をリジェネラティブ農業から調達する目標を掲げており、フィリピンでは「Nescafé Plan」というイニシアティブを展開している。このプログラムは、現地のコーヒー農家に対して、リジェネラティブ農業を実践するための土壌管理、収穫後の処理、病害虫管理などに関する最新の農業技術を提供している。
Nestléの取り組みは、フィリピンの農業省との連携によってさらに強化されている。Nestléは農業省の技術者や農業省が支援するコーヒー農家に対して、栽培技術研修の提供を通じてコーヒーの持続可能な生産と品質向上に貢献している。
https://www.nestle.com.ph/csv/communities/nescafe-plan
複数企業の共同によるリジェネラティブな原材料調達の可能性
Nestléのような世界的企業でなければ、企業が単独で海外からの原材料調達をリジェネラティブに転換することは容易ではない。海外から農産物を原材料として調達する中堅・中小の食品企業にとっては、自然由来の成分を活用した低環境負荷の農業資材などを製造・販売する企業などとも連携して、現地でリジェネラティブ農業を実践するパートナー団体・企業を探すのが現実的な方法かもしれない。
パートナーとなる現地の農業団体・企業を探すために、補助金や助成金を活用した情報収集や調査も有効である。


(文責:ビジネスコンサルティング事業部 山﨑三佳代)