※西ウクライナ:ジトミール州、ボリーニ州、リビウ州等、ウクライナ西部の8州(ウクライナ全土では24州)から構成される地域(以下の地図参照)。
米国シンクタンク、戦争終結後の海外投資を視野に西ウクライナの実態を調査
将来の戦争終結後の復興において、海外投資の可能性をさぐるために、米国シンクタンクがスポンサーとなって、西ウクライナの産業(農業、サービス、貿易等)、インフラ(エネルギー含む)、外国投資、地方行政制度、商慣行等の実態を調査した結果を入手した(調査実施はポーランドのシンクタンクが担当)。この地域を対象としたのは、前線から遠いために産業やインフラの被害が少ないことが大きいが、ウクライナ国内の企業(外国企業含む)が戦争を逃れてこの地域に移転しつつあること、また、国内地域からの移住者、避難者が多く労働力が豊かであること、また、ポーランド国境が近いため通信や物流の環境が良好であること等もその理由である。
10年以上前から海外資本が流入、戦時下も海外からの投資が増加
同報告書によると、海外からの投資は西ウクライナ各地において10年以上前からはじまっており(以下右の地図中の焦茶箇所)、2021年2月に戦争が始まって以降、一時的には冷え込んだものの、その後、比較的に活発といえるほど、海外投資が進んでいることがわかる。報道によれば、フィリップモリスは東部よりリビウ州に工場を移転、農業分野に注力するバイエルはジトーミル州で稼働中のトウモロコシ種子生産工場を増強、ネスレはヴォリーニ州に麺生産工場を新設等、農業、食料分野が目立つが、このほかにもAI、物流、建築資材、機械製造等において、投資が進みつつある。


古い商慣習に縛られずビジネスに適した「新世界」となるか
比較的に治安が良い西ウクライナには、戦争終結後を見据えた投資(工場の移転や移転に伴う拡張が多い)も視野に、海外からの視察団、調査団が入っている。視察団や調査団は、ウクライナ国内(西ウクライナ以外)に工場や事業所をもつ企業だけではなく、ロシア国内に工場や事業所をもつ外国企業、また、ウクライナやとロシアには拠点や取引のない企業もあるようだ。ウクライナはロシアの商慣行が根付いていて、日系企業にとってはアジア地域への進出よりも数段、難易度が高いと思われるが、西ウクライナは、欧州(ポーランド)への国境が近く、市場アクセス条件が比較的良好でもあり、外国企業の移転や進出、新たな住民の増加、また、多くの戦後復興予算の投入が見込まれることなどから、これまでのウクライナとは異なる地域、いはば「新世界」として捉え、その動向に関心を寄せてみたい。
(文責:ビジネスコンサルティング事業部 荒井)