インドネシア:電動二輪車(EVバイク)普及で広がる日本企業の参入機会

人口2.7億人を有し世界で4番目に人口が多いインドネシアは、中所得者層増加による消費拡大や人口ボーナス期による経済成長が見込まれている。さらに、同国はインド・中国に次ぐ世界3位の二輪車販売市場であり、近年、インドネシア政府は環境問題への対応と産業振興を目的として電動二輪車の普及促進に向けて積極的に取組を進めている。二輪車電動化のトレンドに伴い、二輪車や関連部品のメーカーのみならず、金融や充電インフラ等のサービス分野にも新たな参入機会が広がっている。

2035年までに1,200万台(累計)が政府目標

インドネシア政府は国際競争力のある産業の育成や産業開発を推進しており、二輪車を含む自動車産業を競争優位の可能性が高い産業として位置づけ、特に電動二輪車産業においては、その普及のみならず、生産、輸出の拠点となることを目指している。政府が定めた電気自動車発展ロードマップでは、2035年までに電動二輪車の累計販売台数を1,200万台とする目標値が設定されている。GesitsやSelisといった現地メーカーに加え、Hondaも電動二輪車を販売するなどすでに50社以上のメーカーが参入している。

実際は、2023年の同国における電動二輪車の販売台数は約6万2千台(インドネシア運輸省登録台数ベース)にとどまっており、政府が設定した目標値には遠く及んでいないのが現状であるものの、政府補助金政策の充実や充電インフラの整備をはじめ様々な取組が進められている。また、購買層の拡大も進んでいることから、今後の動向を注視したい。

出所:AISI(インドネシア二輪車工業会)、尼政府の資料より作成

電動二輪車の普及がもたらすビジネスチャンス

現時点では普及が限定的ではあるものの、日本企業にとっての将来の市場ポテンシャルを見据えた新たなビジネスチャンスはある。

部品産業でいえば、従来のエンジン車向け部品に代わり、モーター、バッテリー、電磁制御ユニット、充電ポートなどの需要拡大が見込まれ、現地及び日系の部品メーカーの多くは、既存部品の技術を活用することによるチャンスがある。

また、同国の経済成長に伴う中間層の拡大とその所得向上、市場規模の大きさから、イオンフィナンシャルサービスや三井住友フィナンシャルグループなどすでに複数の日系金融機関がオートローン事業を展開しており、現地金融機関のM&Aを通じて事業拡大のチャンスがある。

さらに、電動二輪車の普及には充電インフラの整備が急務とされる中、同国では電動二輪車用バッテリーのシェアリングサービスが都市部を中心に限られている。写真にあるようなバッテリー交換ステーションはすでに1,700箇所以上のガソリンスタンドやコンビニエンスストアに設置されており、ユーザーはこれらのステーションでバッテリーを交換することで、航続距離を気にせず充電待ちの時間を短縮することができる。この利点を背景に、Grabといった現地配車サービス企業もバッテリー交換式電動二輪車の導入を積極的に進めており、こうしたサービス面でもビジネスチャンスはある。

(写真左)ガソリンスタンドに設置されているバッテリー交換ステーション。ユーザーは空いているスロットに使用済みバッテリーを挿入し、充電されたバッテリーと交換する。
(写真右)画面上で各バッテリーの充電具合を確認でき、ユーザーはすでに充電が完了しているバッテリーを選んで交換できる。

電動化の進展に伴い、バッテリーは不可欠な存在となり、これに着目した市場の動きもある。バッテリー向け計測器の需要が増加する中、大手計測器メーカーの日置電機は、トレーニングセンターを同国に設置し、自社製品の研修を実施している。この取組は、バッテリー技術の向上が喫緊の課題であるインドネシアにおいて、バッテリーの安全性向上や人材育成に貢献するだけでなく、同社の事業成長にも寄与することが期待される。さらに、インドネシアで事業展開する日系企業のサントモ・リソースは、電動二輪車の普及後を見据え、使用済みバッテリーのリユースやリサイクルに取り組み始めている。

このように、電動化に伴い多様な分野で新たな需要が生まれている。特に、部品製造、バッテリー関連技術、充電インフラ整備、人材育成といった分野で日本企業が持つ技術やノウハウを、市場成長が著しいインドネシアのニーズや課題に的確に対応させることで、同国の産業発展に寄与するとともに自社の競争力強化にも繋がる。


電動二輪車のさらなる普及には、バッテリーの安全性確保や標準化、車体価格の引き下げ、充電インフラの拡充といった課題を解決することが不可欠であるとされている。これらの課題解決に向けて、日本企業が持つ技術力とノウハウを活用することで、インドネシアの電動二輪車産業の発展に大きく貢献できるとともに、既存のビジネスチャンスをさらに拡大し、現地市場でのプレゼンスを高めることが期待される。

(文責:ビジネコンサルティング事業部 齋藤)

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